#001─日日食堂のこと

 

僕は常々大磯という町が持つ文化的な香りや風土を、この今古今と日日食堂というお店で体現したいと考えています。

 

体現というと大袈裟ですが、とにかく大好きな大磯と仕事を通じて深く関わっていきたいのです。

 

そこで、この土地で暮らすことで感じる「心地良さ」を少しでも共有できることを願いながら、日々の仕事について書いてみます。

 


 

まずは食材の話から。

 

食材は、その日に揚がった地魚を早朝港まで買いに行きます。漁師さんから魚の見分け方などの手ほどきを受けたり、海の天気の見方を教わったりもします。

 

美味しい野菜は近所の無農薬栽培を行う農家さんに持ってきて頂いたり、直売所へ行って旬の野菜を選んだりします。

 

春先にはスタッフと一緒に近くの海岸まで浜防風という野草を摘みに行ったりもします。
そういえば、柿の新芽を天ぷらにすると美味しいよ、と教えてくれたのも大磯の友人でした。

 

ここ最近は、ヒンメリ(フィンランドの麦わら細工)用に育てたライ麦をたくさん収穫したので、残りの麦わらから食堂用に麦わらのストローをせっせと作っています。

 

 

秋には観月会の催しに向けて大磯の旬を盛り込んだ御弁当の仕込みをします。自宅の庭先の南天や柊、柿の葉なんかも御弁当のあしらいとしてふんだんに使います。

 

 

 

 

 

赤く色づき始めたぐらいの柿の葉を使ってつくる鯵の柿の葉寿司はとても美しく秋の贅沢です。
冬にはおせちを仕込んで、、と云いたいところですが、まだ残念ながらそこには至っていません。でもいつかはきっとみんなでおせちを作りたいとおもっています。

 

そして、仕事風景の話です。

 

毎朝スタッフはお店へ着いたら全ての窓と扉を開けて、新鮮な大磯の空気を店内いっぱいに取り込みます。
お店の裏に自生している野草を摘み、テーブルにちょこんと添えます。

 

 

お店の掃除をしたら一息ついて、みんなで珈琲を飲みながら朝のミーティングをはじめます。

 

ミーティングでは、仕込みや調理の話からはじまって、接客の中での小さな気づきや共有、昨日食べて美味しかったお店、そのお店の素敵な工夫、これから作ってみたい料理、感銘を受けた本、お店の世界観などなど、自分たちがはたらくお店がどう在るべきなのか、日々の雑談の中でその世界観をみんなで共有し、作り上げていきます。

 

少し、仕事以外の話もしますね。

 

お店をオープンして4年半が経過してくると、なんだかんだと頼まれごとも日々増えてきました。

 

今古今の店名には「今の時代に古き良きものごとを取りいれて、今をより豊かにする」という意味がこめられています。
そのようなわけで古い時代に作られた手仕事のものがなるべくゴミにならないように、ご近所の老舗の和菓子屋さんや漁協、旧家などから古い道具を預かり、お店の什器として再利用したりします。勿論頂いてばかりではなく、お客様から預かった中華鍋をお店のコンロで焼き入れすることもあれば、包丁を研いだり、お寺の仏具磨きを手伝うこともあります。

 

 

そんな毎日を過ごしていく中で、お客様やご近所さんから野草や野菜などお裾分けを頂くことが多々あります。
また、スタッフが一人暮らしを始めたいと云う話をするとあちらこちらから「良かったらこれ使うかい?」と古くて素敵な道具が集まってきたりもします。
日々本当に沢山の方々からご厚意や気持ちを頂いています。
とってもとっても幸せなことです。

 

さて、ここからは僕が考えている仕事の心得の話をします。

 

日日食堂では、接客も調理もしっかりとした「技術」があってこそ、自分が伝えたいことや想いがきちんと伝わるとおもっています。
例えば社交的な性格だからといって、お客様の意向をすぐに正しく汲み取れるとは考えていませんし、
家庭料理が得意だからといってすぐにお客様が喜ぶ料理を作れるわけでもないと考えています。

 

どんな接客の品格を持つべきか、どんな調理の技術を身につける必要があるのか、これはお店の数だけ異なった考え方があります。
日日食堂で云うと、スタッフはお客様が心地よく感じるように程よい距離感を保ちながら、お客様としっかりとした信頼関係を築きあげてほしいと考えています。

 

また、日日食堂では食材は形やサイズを選ぶものでは無く、自然の恵みをそのまま使おうという方針で運営しています。
そのため野菜は季節によっては地場野菜が全然無くなる時もあるし、お店で使う野菜たちは、毎回品種も形も様々でひとつひとつみんな味が微妙に違います。
人参は巨大だったり、細いスティックのようだったり、じゃが芋の品種もバラバラです。

 

港で揚がる魚はその日によって異なり、天候によってまったく魚が揚がらない日もあります。
また、約半月ごとに二十四節気に応じたメニューに変わるため、絶えずメニューは変動していきます。
下拵えでは、野菜や魚を五十度で洗って独自のやり方で保存をしたり、またその調理方法も各人の試行錯誤でどんどん変化しながら成長していっています。
とにかく、相当あれこれ考えながら綿密にコミュニケーションを取って進めていかないと、チームでひとつの料理を完成させるのは至難の業です。

 

 

ちなみに、料理とうつわの関係もとっても大事です。
うつわの向こうには作り手の姿が見えます。それは時に僕の背筋をしゃんと伸ばしてくれます。
うつわの作り手の顔を思い浮かべながら料理を盛り付けていると「これくらい頑張ればいいか。」と云う気持ちから、気づけば「まだもっと良くなる。」という風に意識がかわってきます。
うつわを通じてコミュニケーションをとることで、自分を成長させてくれる。それぐらい料理のうつわとのコミュニケーションを大事に、そして愛おしく感じています。

 

長々と書いてしまいましたが、これが4年半成長してきた現在の日日食堂です。

 

一般社団法人日々の暮らしと文化社(今古今/日日食堂) 代表理事 坂間洋平